企業におけるハラスメント
第4回 企業間で発生するカスタマーハラスメント(カスハラ)とその対応

公開日:/最終更新日:
リスクマネジメント

1.企業間でみられるカスハラ
2.カスハラが発生した場合の対処

前回はカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)の内容やクレームとの違いなどについてお話しをさせていただきました。カスハラと言えば企業と個人のお客様間で発生するイメージが強いかも知れませんが、実は企業間取引の場合でも受注側と発注側のような企業間の力関係の差によるカスハラが存在し、こちらも問題となっています。

今回はこういった企業間でのカスハラの内容と、カスハラが発生してしまった場合の企業の対処などについてお話しさせていただこうと思います。

1. 企業間でみられるカスハラ

まずは企業間での代表的なカスハラをご紹介します。中にはカスハラと意識せず慣例のように行われていることもあります。

(1)取引先に対する無理な要求

以下に示す下請法にも抵触する部分もありますが、実現が困難な短すぎる納期や許容範囲を超える値引きを強要されるなど、取引関係上、断りにくい状況で無理な要求を強要された場合などは、カスハラに該当することがあります。

このような要求をされた場合に備え、受注企業側は一定基準を超える要求については、(本人に決裁権がある場合には)その場で断ることとする、あるいはその場では回答せず、会社に持ち帰り検討のうえ上席者よりご回答するなどの指針を用意しておくとよいと思われます。返答に困り、曖昧な応対をしてしまうのが一番危険です。

また、発注側はこういった無理な要求をすることを禁ずる教育やルールを規定しておくことが必要です。

(2)取引先社員に対する暴言

傷つけたり、恐怖を与えたりするような暴言は、カスハラの代表例ですが、悪質な場合は、名誉棄損罪や侮辱罪、恐喝罪といった罪に問われることがあります。

「お前は仕事ができない奴だ」「契約解除になっても良いのか」など、威圧的なメールが繰り返し送信されたことで罪に問われた事例もあります。

その他に見下したような発言もカスハラに該当する場合があります。よく聞くフレーズですが、「もっと上の役職じゃないと話にならない」、「女じゃ役に立たない」といった立場や属性を指摘する差別的な発言も該当します。

暴言については、記録をとることがその後の対処に役立ち、記録を取ることを明言すること自体も予防に繋がります。可能であれば会話の録音の許可を取り録音する、相手にわかるように会話内容をメモするなどの対処が有効とされています。

また、こういったモラルに欠ける発言をする社員がいると、企業自体の印象悪化やネットでの炎上などにも繋がるため、社員の態度や言動については教育が必要です。このことは、社内環境(上席者の言動など)にも左右されますので、確認が必要です。

(3)取引先社員に対するセクハラ行為

接待の場などで、取引先社員の体を触ったり性的な発言をしたりする行為もカスハラとなります。、被害を受けた社員も「仕事だから」と我慢してしまうことが少なくないそうです。企業としても、取引先との関係に支障が出ないよう穏便に済ませたいこともあり、放置されることも多いようです。

女性社員に取引先の男性社員の隣に座るよう促したり、お酌をするよう促したりすることは、カスハラを助長する行為となり得ます。上席者は社員が被害にあわないよう配慮することが大切ですし、接待は複数人での対応をルール化することも有効です。

また、会社として毅然とした対応をすることも必要です。守るべき社員を犠牲にしてよい取引はないと思います。取引先に対し毅然とした対応することで、社員は安心して働けます。

 

カスハラの社会問題化もあり、企業間取引の法規でも改正されているものもありますので、その一部をご紹介します。

下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)
戦後復興期の1956年に施行された親事業者が下請事業者に対する不当な値引き交渉を規制する法律です。2003年には規制対象の範囲が拡大され、法規制は強化されました。

労働施策総合推進法
2020年の改正の際に「他の労働者に対する言動に注意を払い必要な配慮を行う」という内容が追加され、雇用する労働者だけでなく、取引先の労働者もハラスメントの対象に含まれることが明記されました。

2. カスハラが発生した場合の対処

カスハラが発生してしまった場合、被害を受けた社員へのケア、加害者が自社から出た場合の被害を受けた者や被害企業への謝罪や被害者への対処などを適切に行わなければなりません。その後の動向によっては、加害企業として、インターネット上への情報流出や、メディアの報道が行われ、企業への大きなダメージとなることも考えられます。

(1)被害を受けた社員の問題

被害者の社員のメンタル面のフォローは非常に大切です。土下座や暴力、SNSでの誹謗中傷などで酷く傷ついている可能性もあり、心の病にかかってしまうこともあります。

また、軽いカスハラであっても、本人の仕事のパフォーマンスが低下することや、その問題により、他の従業員にも悪影響を与えることもあります。例えば、カスハラ問題の解決を試みた上席者が対応に疲れてしまい、それが原因で上席者が退職してしまうというようなこともあります。

(2)企業としての問題

カスハラに限らず全てのハラスメントにおいても言えることですが、カスハラが発生した場合、被害者側でも加害者側でも企業イメージが大きく低下し、社員の離脱や採用活動などにも影響がでる可能性があります。

カスハラから社員を守ることは企業の安全配慮義務として定められており、被害者側であっても、被害者の社員に対し適切な対処を行わない場合、損害賠償を求められることもあります。加害者側であれば、世間からの批判を受け企業価値や信用価値の低下につながります。

(3)カスハラの対処

カスハラは、該当者やその上席者だけの問題ではなく、企業として対処するという姿勢と対処方針を明確にしておくことで、社員の安心に繋がります。また、企業として対応できる組織づくりも必要です。意識せず加害者となることのないように教育することや社員のための相談窓口の設置、取引先からの相談を受付ける窓口の設置、発生後のメンタルケアを行える環境など、専任者や外部委託も視野に入れて組織づくりを行うことが有効です。

また、発生後の事後処理についても速やかに適切な対応を行う必要があります。個人情報や法律にも関わるため、迅速に対応できるよう外部専門業者と連携できる体制が必要と言えます。

 

株式会社TMRではカスタマーハラスメント対策を講じるための人材教育や社内体制整備のサポート、また、カスタマーハラスメントの相談窓口の設置などの業務も請け負っています。弊社(株式会社TMR)で実施しているカスタマーハラスメントの体制構築のサポートは、定性分析、経営コンサルテーションまで含んだトータルソリューションとしてお役に立つサービスを提供しています。単なるアンケートや研修、調査データの提供にとどまらず、オフィシャルな情報だけではわからない、定性的・実質的な内容に踏み込んだ情報提供も行っています。また、弊社協力会社にて、ハラスメント訴訟にかかる金銭対応への備えもアドバイスすることも可能であり、ワンストップでの対応が可能です。