企業におけるハラスメント
第3回 カスタマーハラスメントへの対応

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リスクマネジメント

1.カスハラスとは?
2.クレームとカスハラ
3.カスハラの具体的な内容
4.カスハラへの対応

日本では「お客様は神様です」という言葉があるように(今となってはすでに「死語」となっているかもしれませんが、一時は一世を風靡した言葉です)、お客様にうやうやしく応対する文化がありました。

かつては強引に飲みに誘っていた上司も現在ではパワハラを意識し、冗談であってもセクハラ発言に該当しないか気を遣うことが常識となっているように、カスタマーハラスメント(以下、略して「カスハラ」と言います。)についても以前とは状況が変わっています。

カスハラは社会問題として認識はされていますが、法規制や対策がなかなか進んでいないのが現状で、加害者側の意識もパワハラやセクハラほど浸透していないようにも思われます。今回は、このカスハラの現状や対策についてのお話をさせて頂こうと思います。

1.カスハラとは?

カスハラとは、顧客または取引関係の立場を利用して企業や従業員に理不尽な要求をする行為です。大声で怒鳴りつける、土下座させる、言いがかりをつけて金品を強要するといった行為がカスハラにあてはまります。

厚生労働省では、以下のようにカスハラを定義しています。

「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上、不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」

2020年に厚生労働省が実施した調査では、過去3年間に何らかのハラスメントの相談があったと回答した企業のうち、最も多かったのがパワハラ(約5割)で次にセクハラ(約3割)、3番目にカスハラ(2割)が続きました。また、カスハラだけは過去3年間で、減少した企業より増加した企業が多く、年々増加する傾向が見られました。

2.クレームとカスハラ

クレームからカスハラに繋がる場合も多く、不当な要求かどうかの判断がしづらい場合や、言葉巧みな話で応対者がカスハラと認識できなくなってしまう場合など、クレームの応対自体が少なからず応対者にとってストレスのかかる業務であることもあり、クレームとカスハラを現場で明確に判断できないことは多いと思われます。

・クレーム
商品やサービスに不具合や不備があったときに、苦情を伝えたり、改善を要求したりすること。不良品などの他に、誇大広告や複雑な契約内容、説明不足などに対して改善を求めるようなものが該当します。

・カスハラ
嫌がらせ行為や根拠のない理由での謝罪や返品、金銭などの強要、理由もない嫌がらせの他、不当な言いがかりをつけ困難な要求をすることなどが該当します。

近年は、クレームにきちんと対応することがリピート顧客の獲得に繋がることや、不満内容が商品やサービスの改善に役立つことなどが認識されており、クレームをマーケティングに活用する企業も多くあります。そのため、クレームを発端として嫌がらせに発展するケースや、応対者への暴言、人格否定などに繋がるケースなどでは、丁寧に対応しなければという意識が優先してしまいカスハラの被害を受けてしまうこともあるようです。

3.カスハラの具体的な内容

カスハラとして申告される主な内容には以下のようなものがあります。近年は、対面や電話での直接会話だけでなく、メールやチャットなどの文字でのやり取りやインターネットを介した外部への拡散などを含むようなものも増加しています。

・長時間拘束やリピート
言いがかりなどの不明確な理由で繰り返し回答を要求し、長時間の拘束を強いられてしまい、業務に支障をきたすケースです。何度も電話かけてきて応対を強要されるような場合もあります。
例)在庫を確認してきますといい席を外し、確認して戻ると「待たせるな」と怒鳴り、3時間以上同じ内容で繰り返し説教をされた。

・暴言や暴力、人権侵害
侮辱や人格否定などの発言を浴びせられる、殴る・蹴る、物を投げつけられるなどの暴力行為を受けてしまう場合の他、SNS等で実名をさらして誹謗中傷されることもあります。
例)在庫を切らしてしまい、申し訳ありませんと回答したところ、「バカ、死ね、辞めろ」等の罵詈雑言を浴びせられた。

・不当な要求
返品、返金に加え慰謝料の要求をされたり、謝罪に加え土下座を要求されたりするケースで、過去に買った分を含め全部返金しろという要求をされた事例などもあります。
例)不良品の返金対応を行い、丁寧に謝罪した際に「土下座して謝罪しろ」と言われた。

・脅迫
不当な要求とセットの場合が多く、「殺すぞ」「店を潰すぞ」などの脅し文句を使い、嫌なら要求を呑めと強要してきます。更に最近では、「ネットでさらすぞ」などの脅迫も多いようで、インターネット上で話題になってしまうと真偽に関わらず企業ダメージを与えられる危険性もあることから、対応が難しい場合があります。
例)慰謝料をよこさないと、SNSや口コミサイトに悪い評価記事を書き込むと脅された。

店舗で大声をあげるなどの明らかな業務妨害、脅迫、暴力などは威力業務妨害や脅迫罪、傷害罪などの法律で取り締まることが可能ですが、カスハラについては、その内容が民事の範囲に該当することも多く、企業側で対策を行わないと防ぐのが難しいのが現状です。

4.カスハラへの対応

カスハラへの対応の前提として、カスハラとする判断基準を明確にし、企業内で認識を一致(統一)することが重要です。これは、応対者ごとに判断基準が異なった場合、お客様または取引先への応対に差が生じ、関係性が悪化 する危険性があるからです。
この前提を踏まえ、以下のような対応を行うことが有効と考えられます。

・対応方針 の明確化
毅然とした応対を行う方針にせよ、柔軟な応対を行う方針にせよ、顧客や取引先に対して、カスハラ対応の姿勢や方針を提示しておくことで、顧客にカスハラ対策を実施していることを認知してもらえ、予防策にもなります。また、従業員にも指針に従った行動ができるという安心感を与えることができます。
近年では、2022年10月に、日本を代表する大手ゲームメーカーがサービス規程に「カスタマーハラスメント」の項目を盛り込み、脅迫や人格を否定する発言、クレームの過剰な繰り返しなどには応対しないことを明記し、悪質な場合には警察や弁護士などに連絡し適切に対処するとして公表しています。

・従業員相談窓口 の整備
カスハラを受けた場合はもちろん、カスハラかどうかの判断に迷う場合 も含めて、従業員が相談できる相談窓口を設置することは重要な取り組みと言えます。カスハラ被害では、該当従業員の離職だけでなく、対応によって自社の信頼度などにも影響を与え、場合によっては被害にあった従業員から企業側の保護責任を追及される可能性もあります。従業員が安心して働ける体制づくりは、大変重要な取り組みと言えます。

・手順・マニュアルの整備と教育
従業員がカスハラの判断や対処が行えるように対応方法をまとめておく ことで、組織的な対応が行え、被害の発生防止や従業員の応対時の不安解消にもつながります。対面での顧客応対、電話応対、メール・チャット応対など、応対者が判断に困る場合の対応も、それぞれの現場に合わせて明記されているとより良いと思います。

また、これらの手順やマニュアルを周知し、従業員一人一人が自社の対応方針から具体的な対応方法までを理解しておく必要があります。そのため、社内教育、研修等を行うことも必要となります。

上記のようなカスハラへの対応、社内体制構築については、リスクマネジメントの専門家を活用することも検討できます。法規制や雇用環境などの専門的な知識に加えて、個人情報の扱いなどにも長けた専門会社は非常に有効と言えます。

株式会社TMRではカスタマーハラスメント対策を講じるための人材教育や社内体制整備のサポート、また、カスタマーハラスメントの相談窓口の設置などの業務も請け負っています。弊社(株式会社TMR)で実施しているカスタマーハラスメントの体制構築のサポートは、定性分析、経営コンサルテーションまで含んだトータルソリューションとしてお役に立つサービスを提供しています。単なるアンケートや研修、調査データの提供にとどまらず、オフィシャルな情報だけではわからない、定性的・実質的な内容に踏み込んだ情報提供も行っています。