企業におけるハラスメント
第2回 パワーハラスメントの分類と事例

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リスクマネジメント

1.まずは、パワハラの特徴を知ること
2.パワハラの分類と事例
3.外部との関わりの中でのハラスメント

前回はパワーハラスメント(以下、略して「パワハラ」といいます)がもたらす企業リスクや取り巻く環境などについて掲載しましたが、今回はパワハラの内容について詳しくみていきたいと思います。

1.まずは、パワハラの特徴を知ること

最も多いのは、仕事をする上で必要な指示の延長でパワハラが起こってしまう(受け止められる)ことです。指示を出す側があくまでも教育のつもりで行ったことが、結果的にパワハラとして受け止められてしまうケースが少なくありません。仕事上の正しい指示とパワハラの境界が曖昧ため、何をどう対処すれば良いかの判断が難しいところです。そこで重要となるのが、どのような行動がパワハラに該当するのかという特徴をしっかり理解しておくことです。

実際に発生した事例を基に、厚生労働省では大きく3つに分類し、更にそれぞれを2つに分類した計6つのタイプに分類しています。これらの分類の内容とそれぞれの具体的な事例をご紹介しますので、特徴を理解していただければと思います。

2.パワハラの分類と事例

厚生労働省がパワハラを類型化した分類内容は以下の6つとなります。

(1)個人への攻撃

① 身体への攻撃
② 精神的な攻撃

(2)不当な仕事の要求

① 業務経験からみて明らかに過大な要求
② 業務経験からみて明らかに過小な要求

(3)仲間外れとプライバシー侵害

① 人間関係からの切り離し
② 個の侵害

それぞれの分類の内容と簡単な事例を以下にご紹介します。

(1)- ① 個人への攻撃(身体的な攻撃)

社員の身体に危害を加えることや物を投げつけるような物理的な攻撃を行うことです。部下や同僚に対し、暴力を振るい、脅して従わせようとする行為などが「身体的な攻撃」に該当します。

事例)
ある大手家電量販店社員が販売委託スタッフに対して暴力をふるい、謝罪を強制したケースがあります。

販売委託スタッフの勤務態度が悪かったことに対し、家電量販店社員が販売委託会社社長と販売委託スタッフに対し注意したところ、反応が薄かったことから家電量販店社員は販売委託スタッフの胸を突き飛ばし、更に強制的に謝罪をさせたのです。その場にいた販売委託会社社長は、それに対し何もすることができませんでした。

結果、家電量販店側だけでなく、その場に居合わせながら暴力を静止しなかった販売委託企業代表の共同責任も問われました。

(1)- ② 個人への攻撃(精神的な攻撃)

脅しや暴言など、脅迫するような言動、人格を否定するような侮辱や発言、ひどい暴言は、「精神的な攻撃」に該当します。

事例)
保険会社の上司が部下に対して暴力的な言動を発したケースです。

営業成績の振るわない部下に対し、上司が「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだ」といった内容が記載された電子メールを何度も繰り返し送信しました。このメールを受け取った部下が、執拗に繰り返されたこの行為により精神的にダメージを受けたとする訴えを起こしました。

これらの行為が精神的な攻撃であるとして認められ、会社と上司に対し損害の賠償を求めました。

(2)- ① 不当な仕事の要求(過大な要求)

業務上、明らかに必要の無い仕事や現実的に行うことが難しい不可能な仕事などを強要することで、仕事に対する妨害を行う行為は「過大な要求」に該当します。

事例)
通信会社で社員に対し、2名分の業務を担当するよう繰り返し上司が強要したケースです。

顧客問合せ業務に従事していた社員に対して、同部署社員1名が退職した際に(退職の原因が残された社員との軋轢などにあったのかもしれませんが)退職者が担当していた業務分も含めた2名分の業務を担当するよう繰り返し上司が強要しました。更にこの上司は、同社員および家族に対しても「業務が担当できないなら辞めろ」とメールを送信しました。

訴訟の結果、この上司の行動は過大な要求であるとして認められました。

(2)- ② 不当な仕事の要求(過小な要求)

本人の能力や経験とかけ離れた、希望していない簡易な仕事に従事させることや、仕事そのものを与えない行為が「過小な要求」に該当します。

事例)
路線バス営業所所長が、接触事故を起こした路線バス運転手に対して、1ヶ月もの間、終日にわたり本来の業務とは関係のない除草作業のみを行わせたケースです。

業務中に路線バスを駐車車両に接触させる事故を起こした路線バス運転手に対して、路線バス営業所所長が下車勤務として8月の1ヶ月間、営業所構内の除草作業を命じました。

事故防止の観点からの下車勤務自体は違法ではないとしながらも、下車勤務の中でも最も過酷な8月の炎天下の元で終日にわたる除草作業のみを行わせたことは、事故防止などの本来の目的からも逸脱しており、本来の業務と比較して過小な業務要求であったとして、違法な業務命令と認められました。

(3)- ① 仲間外れとプライバシー侵害(人間関係からの切り離し)

特定の人に対して、仕事から外す、別室に隔離する、無視や仲間外れにするなど、隔離することや無視する行為が「人間関係からの切り離し」に該当します。

事例)
会社の行為を告発した社員に対し、報復的に人間関係の疎外を行ったケースです。

運送会社約50社が共同で路線運賃を申し合わせていた事態を知った社員が、新聞社に告発しました。その結果、この社員はその後20年以上に渡り、他の社員と離れた個室に席を配置され、仕事も雑務しか与えられませんでした。

この処遇を不服とした訴えが人間関係からの切り離しとして認められました。

(3)- ② 仲間外れとプライバシー侵害(個の侵害)

労働者を職場外でも継続的に監視したり、個人の私物を無断で撮影したりすることが該当します。面談等で話した、病歴などの機微な個人情報について、本人の了解を得ず同僚や社内の人に情報提供してしまうことも「個の侵害」に該当します。また、私的な生活範囲に会社が関わる行為も「個の侵害」に該当することがあります。

事例)
私的な問題に対し、会社の上司が職制上の立場を利用し、繰り返し問題解決を迫ったケースです。

スーパーで働く社員が知人の住居を個人的に賃借していました。契約更新期に明け渡しを求められたものの、これに応じようとせず、話し合いがこじれました。

そこで、この知人は、知り合いである社員の働くスーパーの専務に協力を依頼し、専務が社員と話をしてみたのですが、応じる気配がないため、社員の上司である次長にも協力を仰いだところ、次長は部下である社員に対し、左遷などの人事的な不利益もほのめかし、繰り返し明け渡しを迫りました。この行為に対して、社員から精神的な損害を被ったとして損害賠償が求められました。

裁判では、私的な話に対し、職制上の立場を利用したことと繰り返し迫ったことが上司としての説得の範囲を超えており、個の侵害にあたると判断されました。また、会社として対応していることが明らかなことから、次長だけでなく会社に対しても損害賠償義務を負うこととする判決となっています。

 

ここで取り上げた事例は善悪が比較的分かりやすいものが多いですが、些細と思うようなことでも、指示を受ける部下側の受け取り方次第では、上司側が意図していないようなパワハラに該当してしまう場合もあります。また、対策を行わなかったとして、企業側に責任が追及されることも少なくありません。

企業側にとっては、直接的な責任追及だけでなく、風評リスクによる従業者の離脱(退職)や応募者の減少による人材不足、取引先の減少等、経営上の悪影響が生じる危険性もあります。

パワハラの該当要件を理解し、日ごろから意識しておくほか、企業として教育やヒアリングできる環境を用意する等の対策を行うことも必要です。

3.外部との関わりの中でのハラスメント

これまで上司と部下のような指示命令関係にあるハラスメントとして、パワハラをご紹介してきましたが、顧客や取引先など、外部との関わりにおいて発生するハラスメントにはどのようなものがあるのでしょうか?

顧客から過剰なクレームや何度も繰り返し不必要なクレームを受けることや、営業先で土下座の強要されること、逆に、取引先などに対して不当な要求を行うことは「カスタマーハラスメント」として社会的に問題視されています。

次回は、こうした外部との関係から発生する「カスタマーハラスメント」ついて、その実態と対策についてご紹介します。

リモートワークの拡大によるコミュニケーション手段の変化など、激しい環境変化が起こっており、パワーハラスメントにおいても法改正が短期間で行われています。こうした変化に対応できる社内体制を構築し、対応策を打ち出すのは企業単独で行うのは難しくなってきています。法律やリスク対策などの専門的な知識に加えて、個人情報の扱いなどにも長けた専門の調査会社を活用することは非常に有効と言えます。

 

株式会社TMRではパワーハラスメント対策を講じるための人材教育や社内体制整備のサポート、相談窓口の設置などの業務も請け負っています。

弊社(株式会社TMR)では、定性分析、経営コンサルテーションまで含んだトータルソリューションとしてお役に立つサービスを提供しています。単なるアンケートや研修、調査データの提供にとどまらず、オフィシャルな情報だけではわからない、社内での対立や離職率の高さなどの定性的・実質的な内容に踏み込んだ情報提供も行っています。