企業におけるハラスメント
第1回パワーハラスメントがもたらす企業リスク

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リスクマネジメント

1.企業におけるハラスメントとは?
2.パワハラを放置するリスクと企業が取り組むべき対策は?

1.企業におけるハラスメントとは?

一言で「ハラスメント」といっても、多種多様なものがあります。社会的な多様化に伴い、様々なハラスメントが存在するといっても過言ではありません。
法律として企業が守るべき(言い換えれば、法律で定義されている)ハラスメントには大きく分けて「パワーハラスメント」「セクシャルハラスメント」と妊娠・出産・育児休暇などに関する「マタニティハラスメント」の3つがあります。

それ以外にも、顧客や取引先という立場の優位性を盾に悪質な要求等を行うものとしての「カスタマーハラスメント」や、モラル(道理・倫理)に反する嫌がらせとしての「モラルハラスメント」など多くのハラスメントがあります。

中でも「パワーハラスメント」については、それを規制する法律として2020年に「労働施策総合推進法」という法律が施行され、2022年からは大小問わず全ての企業において、方針の明確化や体制整備を整えることが事業主の義務となりました。

このように職場におけるハラスメントの発生は、企業側の問題として明確になっているので、事業主は何かあった場合に「知らなかった」は通らないということになります。

(1)「パワハラ防止法」っていつからあるの?

各都道府県労働局に寄せられる「職場におけるいじめ・嫌がらせ」に関する相談は年間約8万件の事案が発生しており、件数は増加する傾向にあります。いわゆるパワハラに関する相談件数の増加を背景として前述の「労働施策総合推進法」、通称「パワハラ防止法」が定められ、すべての企業において職場内のパワーハラスメント防止措置を行うことが義務化されました。

防止措置の内容としては、パワハラ防止方針の明確化や相談体制の整備、パワハラに関する労使紛争を速やかに解決する体制を整えることが義務として定義されています。

(2)「パワーハラスメント」はどのように定義されているの?

職場におけるパワーハラスメントの定義には3つの要素があります。

① 職場において行われる上下関係等を利用した言動である
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものと認めれられる
③ 労働者の就業環境が害される

上記3つの要素を全て満たすものを「パワーハラスメント」と定義しています。

業務上必要な業務指示や指導については当然対象にはならないのですが、労働者が「害された」と感じた場合、第三者的に見て害されているかどうか、その指示の必要性や業務範囲が適正かどうかを問われることになります。

(3)パワーハラスメントは多いの?

全国の従業員30人以上の企業・団体、約6,000件のうち、約3人に1人が過去3年間にパワハラを受けたと回答しています。(2020年10月厚生労働省実態調査)

パワハラの内容として最も多かったのは上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする「精神的な攻撃」、次いで上司が部下に対して過酷な環境下での勤務や直接関係のない作業を命ずるような「過大な要求」という結果でした。

2.パワハラを放置するリスクと企業が取り組むべき対策は?

(1)パワハラを放置するリスク

主なリスクは以下の3点です。

① 人材の流出や生産性低下などの事業リスク
パワハラによる体調不良やメンタル不調で欠勤や休職が増加すると、企業は人材不足に陥ります。当事者に限らず、優秀な人材が働きやすい環境を求めて退職するなど、離職率の増加につながるリスクも発生します。

② 企業イメージ低下などの社会的リスク
パワハラ防止法の違反には罰則はありません。ただし、違反が認められると厚生労働省から指導・勧告を受けることがあります。国からの指導・勧告を受けることは、社会的なイメージを損なうことにつながり、事業維持にも悪影響を及ぼします。

③ 損害賠償など法的リスク
パワハラを認識しながら企業が放置や黙認した場合、企業責任を問われる場合もあります。パワハラがある場合には、それを是正する義務があるにも関わらず放置していると、被害者等から損害賠償を請求される法的リスクもあります。

国内において、過去高額な損害賠償請求された事件もありました。
<メイコウアドヴァンス事件(名古屋地裁平成26年1月15日判決)>

従業員が、会社役員2名から日常的な暴行やパワハラを受けたことが原因で自殺したとして、遺族である妻子が会社及び会社役員に対して損害賠償請求を求めた事案で、会社及び代表者に対して、逸失利益、慰謝料など合計5,400万の損害賠償を命じたものです。

一方、海外、特にアメリカでは、パワハラの概念がありません。これは、日本ではアメリカに比べて職場での上下関係が厳しいことが背景にあると考えられます。代わりに同僚や部下によるいじめを含めた職場での不適当な取扱いについて、使用者を含む加害者側に対し、制裁的な意味で「懲罰的賠償」を認めています。これは、損害の填補額を上回る賠償額を認めており、日本の場合よりも巨額の損害賠償が認められているようです。

(2)企業が取り組むべき対策

パワハラ防止法には、企業が講ずべき措置として次の4項目が義務として明示されています。

① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
組織のトップが、職場のパワーハラスメントは職場からなくすべきであることを明確に示す必要があります。指針をスローガンに止めないために、社内規程に組み込むことも必要です。

② 相談に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備
相談窓口をあらかじめ定め、全労働者にもれなく周知する。相談窓口担当者が相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすることが求められています。

③ 事後の迅速かつ適切な対応
相談後、パワハラに関する事実関係を迅速かつ正確に確認し、事実確認ができた場合すみやかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行い、再発防止対策を講じることが必要です。

④ プライバシー保護、パワハラの相談を理由とする不利益取り扱いの禁止
相談者・行為者等のプライバシー保護のための措置を講じ、その旨を労働者に周知することや相談したこと等を理由として解雇その他不利益な扱いをされない旨を定め、労働者に周知することが義務化されています。

こうした取り組みの指針に沿って、パワハラの防止を行うことは事業を維持・拡大していくための重要な経営課題と考えられます。

新型コロナウイルス感染拡大の影響によるリモートワークの増加にともない、メールやチャットなど文字によるコミュニケーションが増加し、意思疎通の齟齬や相手の感情を汲み取れないなど、対面なら防ぐことのできるコミュニケーション上のトラブルも増加傾向にあり、自覚のないままパワハラを行ってしまっているケースも多くなっています。

対面以外のコミュニケーションも欠かせない現代においては、経営陣や管理職だけでなく、企業全体としてパワハラへの意識や体制づくりも必要と言えます。

また、環境の変化が早い現代では、パワーハラスメントの法改正のように政府の対応も速やかに行われるようになってきています。企業も柔軟な対応が行える社内体制の構築が求められており、法規制や雇用環境などの専門的な知識に加えて、人材教育や社内体制整備のサポート、また、パワーハラスメントの相談窓口の設置のできる専門会社を活用することも有効です。

次回は、どのような行為がパワーハラスメントという視点からパワハラと受け取られかねない行動の類型及び実際に企業が訴えられたパワハラ事例についてご紹介します。

 

株式会社TMRではパワーハラスメント対策を講じるための人材教育や社内体制整備のサポート、また、パワーハラスメントの相談窓口の設置などの業務も請け負っています。
弊社(株式会社TMR)で実施しているパワーハラスメントの体制構築のサポートは、定性分析、経営コンサルテーションまで含んだトータルソリューションとしてお役に立つサービスを提供しています。単なるアンケートや研修、調査データの提供にとどまらず、オフィシャルな情報だけではわからない、社内での対立や離職率の高さなどの定性的・実質的な内容に踏み込んだ情報提供も行っています。