M&A・業務提携の前に。相手企業の「評判」と「社風」を調査する意義
~数字(財務諸表)には表れない、現場の不満や経営陣の人間性をどう探るか~

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リスクマネジメント信用調査

1. DDだけでは見えない「評判」や「社風」
2. M&A後に「評判」や「社風」が原因で失敗するケース
3. 不本意な結果にならないために意識すべきこと

M&Aや業務提携において成否を左右するとされるデューデリジェンス(企業価値やリスクなどの分析、評価 以下DD)ですが、財務DDや法務DDを高精度で行ってもM&Aで成果を出せない事例が数多くあります。その理由の多くは、財務諸表には表れない「評判」や「社風」など、現場の不満や組織文化、経営陣の人間性などにより、統合後に効果が出せない事態に陥ることや、深刻な問題の発生とそれに伴う損失などによるものです。
今回は、M&AにおいてDDだけでは把握が難しい事象や、「調査」を伴わないことによるリスクについて考えてみたいと思います。

1. DDだけでは見えない「評判」や「社風」

DDでは、企業の実績や実態、資産などを示す様々な数値や、社内規定や定款、情報システムなどの具体的な書類や設備など、主に定量的な情報を元に分析が行われます。それに対し、「評判」や「社風」というのは、主観的であり曖昧な印象があり、DDとしては扱いにくく敬遠されがちです。
しかし、人材流出の兆候、意思決定の歪み、コンプライアンス軽視の文化など、企業価値を中長期的に毀損するシグナルが最も色濃く反映されていることが多いのは、こういった「評判」や「社風」です。

「評判」や「社風」の具体的な例としては、以下のようなものがあります。

・ 社員の定着率や離職理由
・ 業界内での経営陣の評価
・ 取引先や金融機関との距離感
・ キーパーソンへの依存度
・ 企業理念
・ 企業体質

これらについては、主観的で曖昧な情報を鵜呑みにすることは当然できません。ですので、複数のチャネルから情報を収集し、突き合わせて立体的に把握する必要があります。そのためにはきちんとした調査が必要となりますが、これらの情報から把握できるのが、「業績は好調だが、実は現場は疲弊している」「トップのカリスマ性への依存度が高すぎる」「キーパーソンがいなくなると立ち行かなくなる可能性がある」など、組織の綻びや「好決算であっても中身は満身創痍」といった表面上の数値と内部とのギャップなどです。特に短期的な成果の裏で組織に無理が蓄積している場合は、様々なサインが現れるものです。

2. M&A後に「評判」や「社風」が原因で失敗するケース

精度の高いDDを経てM&Aを行ったにも関わらず、うまく行かないケースとして、以下のようなものがあります。

経営者のワンマン体質

強力なワンマン体質の経営者が去ると、幹部やキーパーソンが次々と退職し、本来想定していた企業価値が発揮できなくなることがあります。組織運営が円滑になり効率化しても、運営の方法が大幅に変わるため、良い効果を生むこともありますが、一斉に退職者が出てくることや在職者のモチベーション喪失などが発生する可能性もあります。

ハラスメントや不透明な評価制度

ハラスメントが常態化している職場や適切とは言えない評価制度が行われていた場合、それらを当然とする社内文化は長年にわたり固定化しています。それを改善されないまま放置することは、退職者の発生や社内の不満が募ることにつながります。一方で、M&A後にこうした慣行が見直されると、その文化が崩れることで社内の統制に混乱をきたす可能性もあります。

コンプライアンス意識の低さ

不正や不法行為はDDで見抜けることも多いですが、環境配慮をしない、粗悪な原材料使用、利益至上主義など、健全とは言えない企業文化が根付いている場合、統合後に発覚し、ブランドや企業のイメージ失墜、顧客からの信用や社会的信用の低下を招くことがあります。また、これらを改善する際に、その改善コストが重くのしかかる場合もあります。

このような問題は突発的に発生する問題ではなく、多くの場合、買収前から断片的な兆候は存在しています。ただ、確証を得ることが困難で定量化できる内容ではないため、DDでは発覚せず、統合後に運用して初めて判明することも多く、発生してしまうと想定していたシナジー効果が発揮できないどころか、人材流出、ブランドや信用の毀損、対策コストの上積みなど、様々な負の遺産を抱え込むことになりかねません。

3. 不本意な結果にならないために意識すべきこと

M&Aによって不本意な結果を招かないためには、買い手側が入念に調査することでリスクを避ける対策を行うだけでなく、売り手側も自社の価値を高め、統合後にも企業価値を発揮できるよう対策を行うことで、ディスカウントの防止や積み上げた経営実績を社会的に認められることに繋がります。

 買い手側が意識したいこと

「相手を信じたい」というバイアスを自覚し、あえてネガティブに検討してみる姿勢も必要です。第三者を活用したヒアリング、元社員や元取引先などの評価、業界内の非公式な評判など、社員や経営陣などの当事者や関係者のヒアリング以外の率直な本音の内容が確認できる対象者から情報を収集することで、多角的な視点で情報を把握することが大切です。

 売り手側が意識したいこと

ガバナンスや組織文化に問題を抱えている場合、財務諸表の数字が良くても、買い手側の不安要素となり得るだけでなく、ディスカウントや信用失墜、悪評を招くような事態となることに繋がります。
M&Aを意識する場合、後継者の育成や経営プロセスの透明化、現場との対話など、数値面以外での企業価値向上にも取り組み、双方にとって実りある結果を目指すことが大切です。

M&Aや業務提携は、「数字の取引」ではなく、「人と組織の統合」であることを強く認識し、財務諸表では測れない評判や社風に対して真摯に向き合う姿勢が、中長期的な成否にも大きく影響するということを理解しておく必要があります。

 

株式会社TMRでは、業歴43年のもと、培われた豊富な人材と多岐に渡るノウハウをもってリスクマネジメント体制の構築支援を行っています。組織体制の最適化支援や内部通報制度、従業員研修による意識改革などの不祥事予防だけでなく、不正疑義社員の行動検証、採用前の適正調査、採用した人員の個人信用調査のご依頼を承っている実績も多数あり、多岐にわたる問題解決で得た豊富な実績を元に効果的な支援を行っています。