企業不祥事の要因
第1回 自動車関連企業の不正

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リスクマネジメント

2023年に実施された調査では、調査対象企業の約25パーセントの企業が過去5年間に外部調査が必要な不正があり、売上高100未満の企業では10%強であったのに対し、1000億円以上の企業では30%超あったという結果が報告されています。同調査での不正の内容では、「労務・ハラスメント」「「横領キックバック」、「品質不正」の3つが30%を超えており、「情報漏えい情報持ち出し」が20%弱となっています。

1.日本の自動車メーカーの認証不正取得
2.認証不正取得の具体的な内容
3.不正が発生した要因

年々、企業の不祥事の発覚は増加傾向にあります。特に長期に渡り「意図的に」行われていた不正が発覚するケースが相次いで報告されています。今回は、昨今話題となっている自動車関連企業の不正問題を例に、このような不正が発生する要因を探ってみたいと思います。

1. 日本の自動車関連企業の認証不正取得

日本の自動車メーカー複数社で認証取得の不正が明らかになりました。排ガス試験や、衝突安全性試験、劣化耐久試験など、複数の試験項目で数値改ざんや部品加工により認証値をクリアするための不正行為が行われていました。

各社共、大手企業だけあり、品質管理部門も存在し、内部通報窓口も設置され、コンプライアンス教育などの社員教育制度も実施されていましたが、長年不正が行われ、常態化していました。法律や国の指針、社会環境に適応し、制度や管轄部署の設置などは実施していても、実態として正しく機能できていないことがあり、不正が明らかになるまで自浄作用が働かないということも、決して珍しいことではないと感じます。

2. 認証不正取得の具体的な内容

自動車関連企業3社の相次ぐ認証取得の不正発覚に対して、調査委員会が各社の調査を行い、調査報告書が提出されました。以下にその概要をまとめてみました。

① フォークリフトなどの産業車両用エンジン製造における不正

自動車用エンジンなどは親会社からの受託開発であったこともあり、親会社の指示に従って製造しているのに対し、産業車両用エンジンは独自の管理が行われており、試験用のソフトウェアのパラメータ値を変更することで、認証試験を通過させていたり、計測値を書き換えて報告したり、耐久試験中に破損や劣化した部品の交換を行ったことを記載せず報告したりしていました。また、自動車用エンジンにおいては、親会社のチェックで疑われないよう燃料射出調整を行い、出力測定結果を報告していたことも明らかになっています。

このような不正が行われた主な理由として、産業車両用エンジンについては、無理な計画であっても納期スケジュールが優先されることが当然となっていたことや、法規に基づく認証に関しての専門部署が設置されておらず、順法性を確認することなく運用されていたことが挙げられます。また、親会社に対しては、昔からの慣習で、整えたデータを作成し提出していたことも判明しています。その他、品質管理部門が正しく機能しておらず、実質的な内部監査はほとんど行われていなかったこと、そして、多くの社員が不正という認識を持っていなかったことが挙げられます。

② 新規開発、販路拡大を優先し、燃費性能や排ガス性能を偽った不正

海外への販路拡大や車種ラインナップの多様化、フルモデルチェンジなど、企画が優先され、人的、時間的リソースに見合わない計画に対し、更なるスケジュール短縮が求められるような環境で、認証試験の不合格で遅らせることが許されない状況となっていました。

要因として、リソースを加味しない拡大路線を進めた企業戦略の策定の他、部署間に隔たりがあり、開発の最終調整を行っている部署が認証試験も担っていたが、他部署からはあそこが何とかしてくれるだろうというような風潮で、内容には無関心だったこと、品質管理部門も開発プロセスには関与せず、書類上の処理だけをするような体制となっていたことなどが挙げられます。また、人命や事故に関わるようなことに対しては厳しい認識がある一方、環境規制などに対しては軽んじているような風潮もあったことが考えられます。

③ 短期開発を維持するために衝突安全性能などを偽った不正

数々の業務改善を行った結果、短期で品質の良いものを開発できることが自社のアイデンティティとなっていました。そのことは、業界内でも認知されており、それゆえ、常に開発スケジュールにはバッファーが無く、最終工程である認証試験にしわ寄せがきているのが実情でした。
特に衝突安全性能の試験では、試験車両の使いまわしができないこともあり、必ず一度で合格させなければならないというプレッシャーの中で行われており、確実に合格が出せるよう、試験用に部品の加工などを行っていました。

修正が許されないタイトなスケジュールが要因ではありますが、無駄な工程を削減する中で、法規の認識が不十分であったこともあり、開発試験で合格できれば、認証試験は形だけでもよいというような認証試験を軽視する風潮となっていました。また、問題発生時には、現場で解決してスケジュールを死守するような現場任せの体制となっていたこともあり、第三者によるチェック体制が甘く、不正が発覚しにくい環境であったことも要因となっています。

3. 不正が発生した要因

自動車関連企業3社の事例では、いずれも無理のある開発スケジュールが要因になっています。また、スケジュールのしわ寄せが最終工程である認証試験にきており、法規を軽視している傾向にあることも共通しています。
ですが、そのタイトな開発スケジュールを改善できない要因や背景は各社異なります。
 

1つ目の企業では、上意下達の企業風土があり、無理難題なスケジュールであっても意見は通らず、変更や遅延も許されないという古い日本企業の体質であったことが、根底にあります。
発覚の経緯も、米環境保護庁(EPA)からの劣化耐久試験データに関する問い合わせがきっかけとなっており、その対応として外部弁護士による社内調査を行った結果、不正が明るみとなりました。

2つ目の企業では、部署間の関係が希薄で、認証試験を担う部署が孤立しており、チェック体制の不足や経営陣のガバナンス欠如など、組織としての問題が大きいと考えられます。
発覚の経緯も、ある社員が米国での認証ステップを確認した際に、自社の認証試験プロセスに問題があるのではないかと気付き、その報告を元に社内調査を行った結果、不正が判明しており、部署間で相互業務理解がないことも明らかとなっています。

3つ目の企業では、短期開発自体が強みとなっていることから、現場でもスケジュール最優先の認識が強く、認証取得が軽んじられていたこともあり、全社的に悪いことをしているという認識が薄かったと考えられます。
発覚の経緯は内部告発ではありますが、内部通報窓口への告発ではなく、外部機関への告発によるもので、詳細な告発理由などは明かされていませんが、告発者は内部への通報では改善されないと考えていたと思われます。
 

今回は、自動車関連企業の認証取得の不正の事例と、その背景や要因についてお話しました。品質管理部署の設置や内部通報窓口設置など、組織体制として整っているように見えても正しく機能していない企業は多数あると考えられます。次回は、こういった不祥事を防ぐための改善点などについて、引き続きお話していきたいと思います。
 
株式会社TMRでは、リスクマネジメント体制の構築支援を行っています。組織体制の最適化支援や内部通報制度、従業員研修による意識改革など、独自のノウハウと豊富な実績を元に効果的な支援を行っています。