プルデンシャル生命保険の不正問題から企業が学ぶべき課題

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リスクマネジメント

1. 不正の内容と発覚の経緯
2. 不正の背景
3. 会社側の責任と消費者に与える影響
4. 不正防止対策

組織的な不正ではないにも関わらず、100人以上の社員が不正に関わっていたという前代未聞の不正問題が発覚しました。なぜ、このような問題が発生したのでしょうか。
社会的信頼度のある大手企業による不正問題が立て続いていることにより、生命保険業界全体の信用が揺らいでいますが、生命保険業界にはどのような問題が潜んでいるのでしょうか?今回はその内容を見ていきたいと思います。

1. 不正の内容と発覚の経緯

不正の内容

架空の投資による詐欺、金銭の貸借および未返済、不適切な投資に顧客を勧誘し、投資先の会社からのキックバックを授与するなど、顧客との密接な関係を悪用し、30年以上に渡り、判明しているだけで総額31億円にも上る不適切な金銭受領が行われてたことが判明しました。
被害顧客は500人を超えており、公表された段階で不正に関わった社員や元社員は107名と報告されています。

不正発覚の経緯

2024年6月、9月と立て続けにプルデンシャル生命元社員が詐欺容疑で逮捕されたことをきっかけに、金融庁から報告徴求命令が発出されており、社内調査の結果、様々な不正が行われていたことが明らかとなりました。現在は、第三者委員会の設置が進められており、詳細の確認と被害者への全額補償を行うと公表しています。

2. 不正の背景

30年以上に渡り、100名を超える社員が不正に関与するという、通常では考えにくい状況はどのようにして生まれたのでしょうか。そこには、過度な成果主義や裁量労働など、保険業界ではありがちな制度とその管理体制の問題がありました。

完全歩合制による不安定な収入と裁量労働制

販売実績に連動するほぼ完全歩合制の報酬体系のため、収入が不安定な給与体系となっており、生活費不足の月が発生する社員も多かったそうです。
また、歩合制であることから裁量の幅が広く、自律性が求められ、セルフマネジメントができないと一定の収入を安定して獲得するのが難しい環境だったようです。

顧客を継続的に担当するコンサルティング営業

一人の営業担当者が顧客を継続的にサポートすることにより、信頼関係を築き、手厚いサポートが行えることが特長となっていました。この顧客との密接な関係は関係の密室化をもたらし、組織としてその詳細を把握することができない状況となっていました。

好成績社員には管理職も口を挟みにくい社内風土

好成績の営業社員が何より称賛されるような風土(「個」の神格化)となっており、不正や問題行動などは二の次で、管理職であっても優秀な営業社員に口を挟む余地がなかったそうです。このような営業成績最優先で手段を問わずといった風土から、「売上さえ上げれば良い」という風土が一部で蔓延し、顧客情報を転職先へ持ち出す、あるいは元同僚に漏洩させるといった行為への抵抗感が薄れていたことが推察され、会社全体でコンプライアンス意識が低くなっていたと考えられます。

このように、行き過ぎた成果制度と裁量制度により、管理がほとんど行われない体制と、そこから生まれる成果至上主義の社内風土により、長年に渡り不正がまかり通り、多くの社員が不正に関与するという土壌ができてしまったと考えられます。

3. 会社側の責任と消費者に与える影響

問題を発生させてしまった会社側として、どのような責任を負うのでしょうか。その要因を含め見ていきましょう。また、今回の事案は、一企業に留まるものではなく、消費者が持つ生保業界全体への印象も揺るがすものとなりました。

会社側の責任

・ ガバナンスの崩壊

100人を超える社員・元社員が関与し、被害額が約31億円(2026年1月発表時点)にのぼるまで放置していた管理責任は極めて重いとされています。

・ 報酬体系の不備

収入の不安定さが不正の引き金になることを予見し、適切なセーフティネットや監視体制を構築できていませんでした。

・ トップの引責辞任

この事態を受け、2026年2月付で社長(CEO)が交代し、親会社の持株会社トップも交代するなど、経営陣の責任が明確化されました。

・ 損害額の保証

会社として、顧客が損害を受けた金額を補償・補填することを決定しています。総額31億円ともなると企業にとって少ない金額とは言えない規模のものです。

消費者に与える影響

・ 直接的な金銭被害

投資名目で預けた金銭が返ってこない、あるいは私的な借金の踏み倒しなど、実害が発生しています(被害者約500人)。

・ 二次被害の懸念

退職者が顧客リストを他社へ持ち出し、不適切な勧誘に利用される事案も発生しています。

・ 精神的苦痛

「ライフプランナー」として信頼していた担当者に裏切られたという、顧客の精神的ダメージは計り知れません。

4. 不正防止対策

本不正問題は、成果主義に偏った組織体制を長年継続してきたことにより、コンプライアンスや管理体制など、その他のことが疎かになってしまったことが大きいように思われます。まずは企業としての基本に立ち返るためにも、これらの悪しき慣習を排除する改善が必要と考えられます。

全体的な改善方針

・ 評価制度と裁量労働の見直し

成果報酬に偏り過ぎることで、成果至上主義となり、不正につながっていると言えます。成果だけでなく、コンプライアンス遵守や顧客に適した契約、顧客の満足度の高さなど、金銭的な成果以外の企業価値を向上させる行動に対しての評価を取り入れる改善が必要と言えます。
また、放任的な裁量労働は、企業の管理責任放棄とも言え、裁量労働に対してのきちんとした管理体制の構築や規則などを設ける必要があります。

・ 内部統制とコンプライアンス

社員の管理体制の大幅な改善が必要です。特に業務や法令遵守に対しての規則や定期モニタリング等によるチェック体制の改善は必須と言えます。改善に対しての定期的な評価と見直しを行う体制を構築することも重要です。
また、内部統制のためには、コンプライアンス意識を浸透させる教育や社内風土を構築することも必要です。その他、安全に通報が行える内部通報制度の導入など、自浄作用を促す組織構築を行っていく必要があると言えます。

・ 風土改革による改善

経営トップによる不正を許容しない、法令遵守を絶対とする強い意思表示が必要と思われます。すばらしい成果を出しても不正や違法、たとえそれが軽微であっても厳正に処分する姿勢を示していくことで、成果至上主義の風土を壊すことができます。企業風土を健全なものとすることで、信頼回復にも繋がります。

具体的な改善策

・ 「信頼」を「ブラックボックス」にさせない仕組みづくり

プルデンシャル生命では「ライフプランナー」という個人への強い信頼がブランドの柱でしたが、これが裏目となり、顧客と担当者が「一対一」の密室状態になることで、不正が発覚しにくくなっていました。特定の個人に顧客接点を完全に委ねる「属人化」は、最大のリスクであることを認識する必要があります。

対策
複数担当制(リレーションの分散)により、定期的に本部や別の担当者が連絡を取る仕組みを導入する。例えば、契約内容や入金状況を、担当者を介さずに直接顧客へ通知するプロセスを自動化するなど。

・ 「不正のトライアングル」を組織的に崩す

犯罪心理学における「不正のトライアングル」の3要素(動機・機会・正当化)を組織設計でいかに排除するかが問われています。

動機:ノルマ、借金
フルコミッション(完全歩合制)は、成果が上がらない時の心理的圧迫が極めて強い。
評価制度に「最低保障」や「行動プロセス」の評価を組み込み、追い詰められた社員が魔を差す「動機」を減らす。

機会:管理の隙
会社を通さない金銭授受が可能だった。
「現金・個人口座への振込」を厳禁とするルールを顧客側にも周知し、システム的に検知する。

正当化:自分は特別だ
好成績者が「多少のルール違反は許される」と勘違いする文化。
「成績優秀者ほど厳格に監視する」という逆説的なガバナンスを徹底する。

・ 「スター社員」への特別扱いの排除

営業成績が良い社員(スター社員)に対して、コンプライアンス上の疑義があっても目をつぶってしまう、あるいは指摘しにくい空気感があった可能性があります。
「業績」と「倫理」は別物であり、むしろ影響力の大きいトップセールスこそ、組織の規律を体現する存在でなければなりません。

対策
内部通報制度の独立性を高め、上司や部署を飛び越えて経営陣や監査役に直結するルートを実効化する。

・ 退職・転職時のデータ持ち出しに対する「技術的」な防御

今回の事案では、退職後に顧客リストを悪用するケースもありました。
「性善説」に基づいた情報管理には限界があるため、不正防止の対策を行う必要があります。

対策
DLP(データ漏洩防止)ツールの導入により、顧客情報のダウンロードやメール送信を自動検知・ブロックする。アクセスログのAI解析により、辞職間近の社員が大量のデータにアクセスするなどの「不自然な行動」をリアルタイムで検知する。

 

問題の発生している保険業界の営業において共通している「成果」を最優先した放任主義の組織体制は、コンプライアンスやガバナンスが求められる現代においては、時代錯誤ともいえるのではないでしょうか。既に内部統制などが必須ともいえる中、業界全体が組織の改善を後回しにしてきたツケが回って来ているようにも感じます。

株式会社TMRでは、業歴42年のもと、培われた豊富な人材と多岐に渡るノウハウをもってリスクマネジメント体制の構築支援を行っています。組織体制の最適化支援や内部通報制度、従業員研修による意識改革などの不祥事予防だけでなく、不正疑義社員の行動憲章、採用前の適正調査、採用した人員の個人信用調査のご依頼を承っている実績も多数あります。弁護士事務所からの多岐にわたる問題解決で得た豊富な実績を元に効果的な支援を行っています。