今後、生成AIを使いこなす企業と使わない企業の差はどう開いていくか

公開日:/最終更新日:
リスクマネジメント

1. 生成AIの活用状況
2. どのように生成AIを活用しているのか
3. 成果に結びつける活用とは
4. 今後どのように差が開いていくか

企業活動において、AI導入に対する期待が世界的に高まり続けており、既に多くの企業が様々な業務でAIを活用し始めています。しかし、その活用度合いには大きな差があり、体系的にAIを業務に組み込んでいる企業から、文書作成などの一部の作業に留まっている企業まで様々です。

最近では、「生成AI」という言葉が一般的になり、従来までのAIとの違いを整理する必要があります。従来のAIは、過去のデータを学習してモデルを作成し、予測や作業自動化を行うものでした。一方、現在の「生成AI」は、学習したデータをもとに文章・画像・アイデアといった「新しいコンテンツ」を生成できるのが特徴です。こうした状況下、AIを戦略的に活用している企業とそうでない企業との差は広がり始めており、今後その差はさらに顕著になると予測されています。

今回は、生成AIの活用によって今後どのような差が生まれるのかについて考えてみたいと思います。

1. 生成AIの活用状況

国内約6,600社を対象とした調査によると、生成AIの活用を推進している企業は、大企業(資本金1億円以上)で4割超に対し、中小企業では2割超に留まっています。特に「会社として推進しているか」という問いには、大企業25%強、中小企業12%強と大きな開きがありました。推進を阻む要因としては、「人材不足(5割超)」「利点・欠点の評価不能(4割超)」「コスト(2割超)」が挙げられています。

一方、海外の調査では、生成AIを本格導入した企業は非導入企業に比べ、平均利益率が30%、収益率が約22%高いという報告もあります。総務省のレポートでも、日本はアメリカ、ドイツ、中国に比べ導入が遅れていると指摘されていますが、海外では既に生成AIが経営戦略の中核に据えられていることが伺えます。

これらの結果から、大手や海外企業が組織的に活用を推進する一方で、日本の中小企業は多くの業務が属人化し、特定部署や個人単位での利用に留まっている実態が推測されます。現状を前提にAIを部分的に導入しても成果につながらず、「ナレッジの共有(暗黙知の形式知化)」の促進を目的として、AI活用を見据えて業務プロセスや組織を見直す必要があります。また、今必要なのは、経営層が活用の必要性を十分に認識し、経営層が主導してAI投資と変革を主導することです。AIを使えば、単調な業務を減らし、人が価値を生み出す業務に集中し、ビジネス全体の価値を向上させることができるでしょう。AIはあくまで人の補助を目的としたものであり、人を切る(削減する)道具ではありません。

2. どのように生成AIを活用しているのか

AI活用の本質は、「何を変革したいのか」「どんな価値を届けたいか」を逆算して、どこでどう使うかを決める必要があります。
実際の業務システムにおける利用例は以下の通りです。
・ データ分析
顧客データ分析による広告最適化、需要予測、新事業のアイデア創出など。Amazonは需要予測に生成AIを活用し、在庫管理の最適化と大幅なコスト削減を実現しています。

・ 製造業
画像認識を用いた品質検査や、設備の予知保全による、ダウンタイムの削減。

・ サービス業
来客予測に基づくシフト管理、顧客の要望を可視化してデザイン・プランの提案。

・ その他
採用選考、コールセンター、医療画像解析、教育分野での個別カリキュラム作成、農業の育成管理など。

これらは単なるツール利用ではなく「業務プロセスへの組み込み」であり、競争力、収益性の向上や他社との差別化という形で明確な成果が現れています。 一方で、文書作成やプログラミング支援といった「一部の作業での活用」は、個人単位の生産性向上には寄与するものの、組織全体の大きな成果としては見えにくい傾向があります。

3. 成果に結びつける活用とは

真の成果を得るには、生成AIを単なる「効率化ツール」ではなく「経営戦略」と捉え、目的・目標を定めることが不可欠です。
・ 目的・目標の明確化
単なる作業の削減ではなく、新商品・サービス創出や収益構造の改革など、「変革」を意識すること。これを経営課題として位置づける体制が必要です。

・ 組織・体制
経営者が直接関与し、IT部門任せにせず全社横断的に取り組むこと。リスク管理を含めた業務への組み込みを主導する必要があります。

生成AIを使いこなす企業とは、導入自体を目的とするのではなく、達成したい目標のためにAIを手段として最適に用いている企業を指します。そして、AI活用による生産性向上によって生まれた時間を使って、人間がこれまでより付加価値の高い業務に従事できることが競争優位につながる本質的なメリットです。

4. 今後どのように差が開いていくか

AI活用は単なる技術的導入ではなく、経営そのもののあり方に直結するテーマです。経営層が明確な方向性を示し、組織全体を導くことが不可欠です。
これまで記載したように、生成AIを使いこなす企業は、AIによって自らの革新スピードをさらに加速させます。その結果、現状を維持しようとする企業との差は、これまで以上に急速に広がっていくでしょう。

「導入しなければ」という焦りから闇雲に動くのではなく、市場動向やリスクを冷静に分析し、経営戦略に照らして活用を検討することが、真に「生成AIを使いこなす」ことにつながり、成果を持続的に引き出すカギとなります。
無理に生成AIを使うことを目的化するより、企業として常に「改善・変革し続ける体制」を構築することこそが、最も重要なのではないでしょうか。
とはいえ、自社のリソースだけで取り組むには限界があり、必要に応じてプロンプトエンジニアリングの研修、セキュリティガイドラインの策定、業務選定のコンサルティングなどといった外部の専門家の知見や経験を取り入れることも、取り組みを確実にする有効な方法となります。

 

株式会社TMRでは、業歴42年のもと、培われた豊富な人材と多岐に渡るノウハウをもってリスクマネジメント体制の構築支援を行っています。組織体制の最適化支援や内部通報制度、従業員研修による意識改革などの不祥事予防だけでなく、採用した人員の個人信用調査のご依頼を承っている実績もあります。独自のノウハウと倒産企業予知情報「企業特調」や「日刊誌 ウォッチ」、弁護士事務所からの多岐にわたる問題解決で得た豊富な実績を元に効果的な支援を行っています。